航空法第132条の92「捜索・救助等のための特例」の再周知と補足 [2026年7月28日]
「熊を目撃していなくても」対象になり得る ― 航空法第132条の92「捜索・救助等のための特例」の再周知と補足 [2026年7月28日]
出没情報や足跡だけでも予防飛行は特例の対象に ― 航空局が132条の92の運用を補足説明
2026年7月28日、国土交通省航空局は「航空法第132条の92の特例適用の対象となり得る事例」について、再周知と補足説明を行いました。ポイントは一つで、熊を実際に目撃していない段階でも、出没の蓋然性が高く予防的措置として緊急性がある飛行であれば、この特例の適用対象になり得るという点です。近隣自治体での目撃情報や、大型動物の足跡の発見などがその一例として挙げられています。
昨年(2025年)11月28日には、「航空法第132条の92の特例適用の対象となり得る事例」に、熊対策を含む獣害を未然に防ぐための飛行の事例が追加されていました。今回はその内容を踏まえ、昨今の熊の出没事案の増加を受けて、改めて周知するとともに適用範囲を明確化した形です。本稿では、告知の内容に加えて、根拠となる運用ガイドライン(令和6年11月29日最終改正)と事例集の内容を合わせて整理します。
1. 発表の要点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年7月28日 |
| 発表者 | 国土交通省航空局安全部無人航空機安全課 |
| 発表内容 | 航空法第132条の92の特例適用の対象となり得る事例の再周知と補足説明 |
| 補足のポイント | 熊を目撃した場合に限らず、出没の蓋然性が高く予防的措置のため緊急性がある飛行も対象になり得る |
| 補足の具体例 | 近隣自治体での目撃情報がある場合、大型動物の足跡が発見された場合 等 |
| 参考PDF① | 航空法第132条の92の特例適用の対象となり得る事例(事例集) |
| 参考PDF② | 航空法第132条の92の適用を受け無人航空機を飛行させる場合の運用ガイドライン(令和6年11月29日最終改正) |
2. そもそも「航空法第132条の92」とは
正式には「航空法第132条の92」およびその委任を受けた航空法施行規則第236条の88・第236条の89に基づく特例で、通称「捜索・救助等のための特例」と呼ばれています。適用対象者は限定されており、誰でも使える制度ではありません。
- 適用対象者:国若しくは地方公共団体、またはこれらの者の依頼を受けた者(ガイドライン上「特例適用者」)
- 適用目的:施行規則上は「捜索又は救助」ですが、その内実は、事故や災害の発生等に際して人命や財産に急迫した危難のおそれがある場合に、人命の危機(災害関連死を含む)や財産の損傷を回避するための措置を指します。調査・点検や捜査の実施もこれに含まれます。
この特例が適用されると、無人航空機に関する以下5つの規定の適用が除外されます。
| 除外される規定 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 飛行の禁止空域 | 航空法第132条の85 | 空港等周辺、緊急用務空域、150m以上の高さなどでの飛行制限 |
| 飛行の方法 | 航空法第132条の86(第1項を除く) | 目視内飛行、夜間飛行の制限など運航ルール |
| 第三者が立ち入った場合の措置 | 航空法第132条の87 | 第三者の立入時に飛行を中止する義務など |
| 飛行計画 | 航空法第132条の88 | 事前の飛行計画通報義務 |
| 飛行日誌 | 航空法第132条の89 | 飛行記録の作成・保存義務 |
※航空法第132条の86第1項(アルコール又は薬物の影響下での飛行を禁止する規定)は、この特例の除外対象に含まれていません。したがって、132条の92の特例が適用される場合であっても、酒気帯び・薬物の影響下での操縦禁止は引き続き適用されます。
ただし、これらの規定の適用が除外されても、特例適用者が第一義的に負う安全確保の責務そのものがなくなるわけではありません。運用ガイドラインは、「許可等を受けた場合と同程度の必要な安全確保を自主的に行う」ことを特例適用者に求めています。また、航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律は、この特例の適用を受ける場合であっても引き続き適用される点にも注意が必要です。
「緊急性がある」の意味についても、ガイドラインは明確に定義しています。これは、飛行の許可・承認申請の窓口へ申請する手段やいとまがない状況を指すとされており、単に急いでいるという主観的な事情ではなく、通常の許可・承認手続を経る時間的・手段的余裕が実際にないことが要件になります。
なお、大規模災害発生時については解釈がやや広く取られており、孤立地域への医薬品・食料品・飲料水等の生活必需品の輸送、危険を伴う箇所の調査・点検、住民避難後の住宅や地域の防犯対策のための飛行なども、人命の危機や財産の損傷を回避するための措置として本特例の対象になるとされています。
3. 今回の補足の核心:「目撃」は必須要件ではない
今回の発表で航空局が明確にしたのは、獣害を未然に防ぐための飛行について、熊などの動物を実際に目撃した場合だけが対象ではないという点です。
- 出没の蓋然性が高く、予防的措置のために緊急性がある飛行であれば対象になり得る
- 例:近隣の自治体で熊の目撃情報があった場合、大型動物の足跡が発見された場合
この考え方は、事例集に掲載されている獣害対策の飛行事例とも整合します。事例集の説明では、「捜索又は救助」の対象は熊に限定されるものではなく、人命に危難のおそれのある獣害全般に適用されるとされています。
ここで注意したいのは、「客観的な根拠がなくても主観的に危ないと思えば対象になる」という意味ではない、という点です。今回の補足が示しているのは、「熊を直接目撃した」という事実だけが唯一の要件ではなく、近隣自治体での目撃情報や足跡の発見といった、出没の蓋然性を裏付ける客観的な手がかりがあり、それに基づく「人命への危難のおそれ」と「緊急性」が認められれば対象になり得る、ということです。目撃地点そのものでの現認にこだわらず、周辺情報から蓋然性を合理的に判断してよい、という運用上の幅が示された形といえます。
4. 特例を使う際に求められる安全確保の実務(運用ガイドラインより)
特例の適用を受けても、安全確保の実務がなくなるわけではありません。ガイドラインが具体的に定めている手続きは大きく2つです。
(1)空港等周辺・緊急用務空域・150m以上の空域を飛ばす場合の通知
空港等周辺、緊急用務空域、または地上・水上から150m以上の高さ(航空法第132条の85第1項第1号の空域)で飛行させる場合は、空港等の管理者や空域を管轄する関係機関との事前調整の後、当該空域を管轄する空港事務所へ電話連絡のうえ、電子メール等で以下の情報を通知する必要があります。この通知に基づき航空局が航空情報(NOTAM)を発行し、周辺を飛行する有人機側にも安全上の措置が講じられます。
| 通知項目 | 内容例 |
|---|---|
| a. 飛行目的 | 山岳救助(滑落者の捜索)等 |
| b. 飛行範囲 | 所在地、緯度経度(世界測地系)による範囲(例:○○山を中心に半径500m以内) |
| c. 最大の飛行高度 | 地上高・海抜高 |
| d. 飛行日時 | 終了時刻未定の場合はその旨も連絡 |
| e. 機体数 | 同時飛行させる最大機数 |
| f. 機体諸元 | 機種(飛行機/ヘリコプター/マルチコプター等)、重量等 |
| g. 飛行の主体者の連絡先 | 実施団体名、担当者名、電話番号 |
| h. 飛行の依頼元 | 依頼に基づく飛行の場合の依頼元組織名 |
なお、132条の85第1項第1号の空域(空港等周辺・緊急用務空域・150m以上)以外で飛行させる場合は、空港事務所等への通知は不要です。熊対策のような公園・里山周辺での低高度飛行の多くは、この通知が不要なケースに該当すると考えられますが、山間部で150m以上の高度を使う場合などは通知対象になり得るため注意が必要です。
(2)有人機との安全確保
捜索・救助を目的とした有人機(消防・警察のヘリコプター等)が同じ空域を飛行する可能性があるため、飛行空域の監視を行い、有人機の飛行を確認した場合はその航行の安全を妨げないよう、無人機側の飛行を中止するか十分な距離を保つことが求められます。
このほかガイドラインは、特例適用者があらかじめ飛行マニュアルを整備しておくことが望ましいとしており、点検整備の方法、操縦者の訓練・技量確保、安全管理体制、事故発生時の報告・連絡体制などを規定するモデル項目を示しています。大規模災害時には、現地災害対策本部等を通じた飛行調整も推奨されています。
5. 事例集に見る実際の適用パターン
事例集には、能登半島地震における対応を中心に5つの事例が紹介されています。今回の熊の事例を含め、それぞれの特徴を整理すると以下のようになります。
| 事例 | 実施場所 | 実施者(依頼元) | 特例適用の有無・特記事項 |
|---|---|---|---|
| 仮設住宅建設予定地調査 | 石川県珠洲市 等 | イームズロボティクス(依頼元:地方自治体) | 目視内飛行+カメラ映像伝送で第三者侵入を監視 |
| 港湾施設の被災状況確認 | 金沢港・七尾港・輪島港 | いであ(依頼元:国) | 補助者配置により第三者の侵入を防止 |
| 河川災害の被災箇所調査 | 石川県輪島市 | 国土開発センター(依頼元:国) | 目視内飛行に限定し、飛行マニュアルを遵守 |
| 台風による大雨災害の被災箇所調査 | 静岡県掛川市 | 高校生ドローン防災航空隊(依頼元:自治体) | 実際には特例を適用せず、通常の飛行計画通報を行った上で飛行した参考事例 |
| 獣害を未然に防ぐための飛行 | 秋田県秋田市 | 秋田県ドローン協会(依頼元:地方自治体) | 赤外線カメラによる目視外飛行を、許可・承認なしで実施 |
特に注目したいのは4番目と5番目の事例です。4番目の台風災害調査は、特例の適用が想定される事例として紹介されつつも、実際の飛行では特例を使わず通常の飛行計画通報で対応しています。特例はあくまで「申請するいとまがない」場合の最終手段であり、通常の手続で対応可能なら通常手続を選ぶのが基本、という運用姿勢が読み取れます。
一方、5番目の秋田市の事例は、市街地への熊の侵入を受けて、熊の探索・行動範囲の確認・住民避難誘導を目的に実施されたものです。本来、目視外飛行や夜間飛行は国土交通大臣の許可・承認が原則必要ですが、この事例では特例の適用により許可・承認なしで赤外線カメラを使った目視外飛行が可能になりました。安全確保体制としては、自治体職員による探索範囲(公園)入口の封鎖に加え、操縦者とカメラ操作者を分ける「2オペレーション」体制で、公園内に第三者がいないことを確認した上で飛行しています。
6. ドローン運用者が押さえておきたいポイント
- この特例はあくまで**「特例適用者」=国・地方公共団体、またはその依頼を受けた者**に限られる制度です。一般の運航者が任意に選択して使えるものではありません。
- 「緊急性がある」とは、許可・承認申請を行う手段やいとまが実際にない状況を指すという点を、依頼元・実施者双方で共通認識にしておくことが重要です。
- 空港等周辺・緊急用務空域・150m以上の高さで飛行させる場合は、特例適用時でも空港事務所への通知(a〜hの情報)が必要です。該当しない低高度飛行では通知は不要です。
- 特例の適用を受けても安全確保の責務自体は免除されません。目視内飛行の徹底、補助者の配置、飛行マニュアルの整備など、通常の許可・承認を受けた場合と同水準の安全対策が前提になります。
- 熊に限らず、人命に危難のおそれのある獣害全般が対象となり得ること、また目撃情報がなくても出没の蓋然性が高ければ予防的な飛行が対象になり得ることは、今回の補足で明確になった実務上の重要なポイントです。
7. まとめ
今回の再周知・補足説明は、新しい制度や新しい条文が追加されたわけではなく、既存の航空法第132条の92の運用解釈を明確化したものです。昨今の熊の出没増加という社会的な背景を踏まえ、「目撃してから」ではなく「出没の蓋然性が高い段階から」予防的な飛行が可能であることを明示した点に実務上の意味があります。地方自治体やドローン運航団体が獣害対応でこの特例の活用を検討する際は、運用ガイドラインが定める安全確保の実務(特に空港等周辺・150m以上の空域での通知義務)と合わせて、事例集の各ケースを参考にすることをおすすめします。
出典・参考リンク
- 国土交通省航空局「航空法第132条の92の特例適用の対象となり得る事例の再周知と補足説明について」(2026年7月28日)https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
- 「航空法第132条の92の特例適用の対象となり得る事例」https://www.mlit.go.jp/koku/content/001846242.pdf
- 「航空法第132条の92の適用を受け無人航空機を飛行させる場合の運用ガイドライン」(令和6年11月29日最終改正)https://www.mlit.go.jp/common/001110204.pdf
- 国土交通省「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
本記事は2026年7月30日時点で確認できる公表資料に基づいて作成しています。個別の事案に特例が適用できるかどうかは、緊急性の有無や依頼元の性質など個別事情によって判断が分かれるため、実際の適用にあたっては航空局の無人航空機ヘルプデスク等にご確認ください。