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事故からの学び 第1回 無人航空機の事故調査報告書

2026年4月13日  2026年4月13日 

農薬散布ドローンが操縦者・補助者を直撃——2件の調査報告書が示す「共通の落とし穴」


このシリーズについて 国土交通省 運輸安全委員会(JTSB)が公表する無人航空機の事故調査報告書を読み解き、現場で飛ばすすべての人に役立つ安全の教訓を届けます。責任追及ではなく「同じ事故を二度と起こさないこと」を目的とした報告書の声を、できる限り正確にお伝えします。


はじめに——2件の事故が語ること

今回取り上げるのは、いずれも農薬散布用の大型マルチローター機(ドローン)が引き起こした、人身事故です。

  • 事故①:2023年7月14日、大分県玖珠郡九重町(報告書番号:AA2024-6-2)
  • 事故②:2024年6月21日、福島県南相馬市(報告書番号:AA2026-1-1)

2件とも重傷者あり。2件とも農薬散布の作業中。2件とも「大型の農業用ドローン」。そして2件とも、少し違う選択をしていれば防げた事故です。

なぜこの2件を一緒に取り上げるのか。それは、機体も場所も人も違うのに、事故の根っこにある原因が驚くほど共通しているからです。その共通点を浮かび上がらせることこそ、最大の学びになると考えました。


事故① 「支柱に衝突して跳ね返り、自分のプロペラに巻き込まれた」

基本情報

項目 内容
発生日時 2023年(令和5年)7月14日 17時55分ごろ
発生場所 大分県玖珠郡九重町
機体 株式会社SamiSamiラボ製 SAMISAMI AG V2(マルチローター)
登録記号 JU32367E6C22
最大離陸重量 35.7kg
操縦者 32歳・個人・技能証明なし
総飛行時間 10時間40分(同型機での飛行:40分)
死傷者 操縦者本人が重傷(右小指中手骨骨折、右中指・薬指伸筋腱断裂等)
報告書公表 2024年8月29日

何が起きたか

操縦者は自身が管理する台形型の田んぼで農薬散布の練習を行っていました。補助者は配置せず、事前の散布計画も作成していませんでした。

2回目の自動飛行(AB点モード)を開始し、機体が散布ラインを終えて次のラインへ横移動を開始したとき、機体がやや斜め方向に進む飛行特性により、田んぼの北側に立っていた道路標識用の支柱へ向かって接近していきました。

危険に気づいた操縦者は自動飛行を中断しようとしましたが、その際に誤って約1秒間「高さ保持モード」を入力してしまいました。正しく「位置保持モード」に切り替えた場合の停止距離は約1mですが、この誤操作により停止距離は1.8〜2.9mに伸び、機体は支柱に衝突。

衝突後、機体は操縦者の方へ進行方向を変えて墜落。機体からわずか約3mの位置にいた操縦者は、とっさに右手で頭部を庇い、その右手が回転中のプロペラに接触して重傷を負いました。

事故の連鎖を整理すると

散布計画なし・補助者なし

田んぼの形状(台形)を考慮しない自動飛行ライン設定

AB点モードの「斜め横移動」特性を把握していない

支柱への接近に気づいたが…

緊急中断操作を誤り(高さ保持モードを1秒誤入力)→停止距離が約3倍に

支柱に衝突→機体が操縦者方向へ跳ね返る

機体から3mしか離れていなかった操縦者にプロペラが接触


事故② 「着陸モードを切り替え忘れ、機体が補助者へ向かって疾走した」

基本情報

項目 内容
発生日時 2024年(令和6年)6月21日 05時38分ごろ
発生場所 福島県南相馬市
機体 イームズロボティクス製 UAV-E6150FA(マルチローター)
登録記号 JU323659D902
最大離陸重量 28.5kg
操縦者 65歳・法人所属・技能証明なし
総飛行時間 約4時間(同型機)
死傷者 補助者Aが重傷(右手の4指開放骨折、左尺骨神経断裂)
報告書公表 2026年1月29日

何が起きたか

早朝5時台、3回目のバッテリー交換のため機体を水田南側のあぜ道へ着陸させようとしていました。補助者A(63歳)はバッテリー残量をタブレットPCで監視する役割で、操縦者の左斜め前方に立っていました。

この機体では着陸時に「AB2点間モード」から「GPSモード」への切り替えが必須ですが、操縦者はこの着陸時のみ切り替えを失念。AB2点間モードのままスティックを下げて着陸させました。

着陸後、モーターを停止させるにはスティックを最下方に10秒程度保持する必要がありますが、操縦者はモーターが停止する前にスティックを中央位置に戻してしまいました(この「早戻し」操作は、前日・当日の他の飛行でも記録されており、習慣的な誤操作でした)。

機体は「着陸した」と判定できず、モーター出力が再上昇。さらに、次のスティック操作でわずかな左ロール入力が加わったため、AB2点間モードの「散布ライン変更機能(4m横移動)」が誤って作動。機体は左方向への高速横移動を開始し、やがて最大スロットルが入力されたことで毎秒5.6mの速度で加速しながら補助者Aへ向かって突進。プロペラが補助者Aの両手に接触し、重傷を負わせました。

事故の連鎖を整理すると

操縦者の飛行経験が要件(10時間以上)を実質的に満たしていない可能性

前回講習から約10か月のブランク(「手探りで操縦」と本人も口述)

着陸時のモード切り替え(AB2点間モード→GPSモード)を失念

着陸後のスティック保持不足→モーター再起動

わずかな左ロール誤入力→散布ライン変更機能が誤作動

機体が左へ高速横移動・加速

補助者Aは機体から9mの位置(推奨20m以上に未満)

プロペラが補助者Aの両手に接触→重傷

2件を並べてわかること——「共通の落とし穴」

2つの事故を横に並べると、驚くほど似た構造が見えてきます。

共通点1:補助者の不在または知識不足

事故①では、申請書類に「補助者を配置する」と記載していたにもかかわらず、当日は一人で飛行していました。事故②では補助者は配置されていましたが、取扱説明書が求める20m以上の離隔距離を知らされておらず、事故時は機体からわずか9mの位置にいました。

「補助者がいれば安全」ではなく、補助者が正しい知識を持ち、正しい位置にいてはじめて意味があるのです。

共通点2:大型機の危険性に見合った習熟度の不足

事故①の機体は35.7kg、事故②は28.5kg。いずれも25kgを超える大型機です。これほどの機体が高速で人に接触したとき、負傷が重篤になることは容易に想像できます。

しかし事故①では同型機での飛行経験がわずか40分、事故②では総飛行時間が約4時間で前回講習から10か月以上のブランクがありました。大型機が持つ運動エネルギーとリスクに見合うだけの習熟が、両者とも足りていませんでした。

共通点3:「モード」の理解と操作の未習熟

事故①では、緊急停止の際に「高さ保持モード」と「位置保持モード」を誤操作。事故②では、「AB2点間モード」のまま着陸したことが直接のトリガーになりました。

農業用ドローンには複数の飛行モードがあり、モードごとに機体の挙動が大きく異なります。「どのモードでどう機体が動くか」を、判断が必要な瞬間に迷いなく実行できるレベルまで身につけているかどうかが、事故の分岐点でした。

共通点4:機体設計・制度上の課題も存在する

報告書は操縦者側の問題だけでなく、制度・設計の問題も指摘しています。

事故①:機体製造者に対して、プロペラガードや衝撃緩和素材など「接触時の危害を軽減する構造」の導入を求めています。

事故②:日本では25kg以上の無人航空機に対して25kg未満と比べた特別な規制がないことを問題視し、国土交通省航空局に対して「より厳格な要件の導入検討」を求めています。カナダ・オーストラリア・米国ではすでに25kg超の機体に対して追加の資格・審査が義務づけられています。


現場で実践すべき安全行動——7つのチェックポイント

2件の事故から抽出した、明日から使えるチェックリストです。

□ 飛行前に散布計画を必ず作成する 散布区域の形状、障害物の位置、飛行経路、操縦者・補助者の配置位置をすべて事前に確認する。「自分の田んぼだから」「練習だから」は理由になりません。

□ 補助者に「20m以上」を必ず共有する 農林水産航空協会のガイドラインは離着陸・飛行中の離隔距離として「機体から20m以上」を推奨しています。この数字を補助者と確認し合ってから作業を開始しましょう。

□ 新しい機体・長いブランクの後は必ず慣熟飛行を行う 農薬散布シーズンは春から秋にかけて集中します。冬のブランクを経て最初の飛行が即実作業、ということのないよう、シーズン前に慣熟飛行の時間を確保することが重要です。

□ 各飛行モードの挙動を「体で覚える」まで練習する 位置保持モード・高さ保持モード・自動モード(AB点モード)それぞれで機体がどう動くかを、頭ではなく指先で覚えるまで練習する。特に緊急停止・モード切り替えは反射レベルで行えるようにしましょう。

□ 自動飛行の「飛行特性」を事前に確認する 自動飛行モードはメーカーや機種によって横移動時の経路特性が異なります。矩形以外の圃場では意図しない経路を飛ぶことがあります。必ず開けた場所でテスト飛行を行い、動きを把握してから本番に臨みましょう。

□ 着陸時のモード切り替えをチェックリストに入れる 着陸手順はチェックリスト化し、声に出して確認する習慣をつけましょう。自動散布モードから手動着陸モードへの切り替えは、特にベテランほど「慣れ」からの失念リスクがあります。

□ 緊急時は「緊急停止操作」を迷わず使う 機体が意図しない動きをした瞬間、人間はパニックで誤操作をしがちです。緊急モーター停止の操作を体に染み込ませておき、「おかしいと感じた瞬間」に迷わず使えるようにしておきましょう。


まとめ

2件の事故は、使用機体も場所も違います。しかし、「補助者の知識不足」「操縦習熟の不足」「飛行モードの誤操作」「離隔距離の軽視」という共通の落とし穴が、両方の事故の底に横たわっていました。

運輸安全委員会の調査報告書は、責任を問うためではなく、同じ事故を二度と起こさないために存在します。公式の記録をきちんと読み、現場の安全に生かしていくことが、私たちドローンに関わる者の使命だと考えます。

この「事故からの学び」シリーズでは、今後も実際の調査報告書を読み解きながら、無人航空機の安全航行に役立つ情報を届けていきます。


今回取り上げた事故の比較

事故①(AA2024-6-2) 事故②(AA2026-1-1)
発生日 2023年7月14日 2024年6月21日
場所 大分県玖珠郡九重町 福島県南相馬市
機体・重量 SAMISAMI AG V2・35.7kg UAV-E6150FA・28.5kg
負傷者 操縦者本人(重傷) 補助者A(重傷)
直接原因 障害物確認不足+緊急停止操作ミス 着陸モード切替忘れ+スティック誤操作
補助者 不在(申請では「配置する」と記載) 配置されたが離隔距離の知識なし
操縦経験 同型機わずか40分 総飛行時間約4時間・10か月ブランク
報告書公表 2024年8月29日 2026年1月29日

参考資料(調査報告書・原典)

  • 運輸安全委員会 航空事故調査報告書 AA2024-6-2(令和6年8月2日議決・8月29日公表)  株式会社SamiSamiラボ製SAMISAMI AG V2 / JU32367E6C22  https://jtsb.mlit.go.jp/aircraft/rep-acci/AA2024-6-2-JU32367E6C22.pdf

  • 運輸安全委員会 航空事故調査報告書 AA2026-1-1(令和7年12月11日議決・令和8年1月29日公表)  イームズロボティクス製UAV-E6150FA / JU323659D902  https://jtsb.mlit.go.jp/aircraft/rep-acci/AA2026-1-1-JU323659D902.pdf

  • 運輸安全委員会 航空 報告書検索  https://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/index.php


本記事は公式の調査報告書に基づいて作成しています。記事内の事実情報はすべて報告書に記載の内容に準拠しています。


→ 報告書の読み方・確認方法はこちら

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ノーマン飛行研究会
2015年 首相官邸ドローン事件があった年、トイドローンを手にして以来ドローンと関わっています。JUIDAの無人航空機安全運航管理者、操縦技能証明とドローン検定協会の無人航空従事者試験1級 を取得しております。無線関連の第1級陸上特殊無線技士も取得しております。 できるだけ正確に学んだことを綴って行きたいのですが、もし間違いなどありましたらご指摘いただけると嬉しいです。 このサイトはリンクフリーです。報告の必要ありません。リンクして頂けると喜びます。
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