無人航空機の多数機同時運航を安全に行うためのガイドライン 第二版 令和8年6月 改訂概要
第一版から第二版への改訂 全体総評
無人航空機の多数機同時運航を安全に行うためのガイドライン 改訂概要
- 機体数の上限廃止
同時運航する機体数の段階的な増加やそれに伴うリスクへの対策の有効性等に関する検証を前提に機体数の上限を廃止 - 実証を踏まえた各要件の精緻化
令和7 年度に行われた多数機同時運航の実証で得られた知見等をガイドラインに反映。
改訂の背景
本ガイドラインは、令和7年3月に第一版が策定されてから、わずか約15ヶ月という短期間で第二版(令和8年6月)へと改訂されました。この迅速な改訂の主な理由は、令和7年度に実施された1:8および1:10の飛行実証の成果です。
第一版策定時点では、先行事例の最大が1:5にとどまっており、「5機を超えると監視が限界を超える可能性がある」という事業者の見解を踏まえ、1:5を実質的な上限としていました。しかし第一版公表後、無人航空機の利活用促進の観点から、スタディグループでの検討と並行して1:8・1:10の実証が進められました。その知見が蓄積されたことで、ガイドラインを実態に即して更新する必要が生じました。
この経緯から、第二版は「1:5上限の撤廃」を最大の軸として全体が再構築された改訂版となっています。
章別の主要改訂内容
第1章(背景)
第1章では、改訂の経緯が整理されました。第一版で1:5を上限とした根拠として記載されていた「定性的な判断」「事業者の見解」「監視の限界に近い」といった表現は削除され、代わりに2025年度に1:8・1:10の飛行実証が行われた事実と、「機数を増やす際には対策の有効性等を段階的に検証することが重要」という新たな原則が明記されました。
また、スタディグループの設置日(2024年10月)と第一版策定月(2025年3月)が初めて明文化され、第二版が「その後の実証等の成果やスタディグループでの検討を経て」策定されたことが正式に記録されました。第1章全体として、「過去の上限設定の根拠説明」から「新たな実証に基づく次のステージへの移行宣言」へと、記述の性格が大きく転換しています。
第2章(想定する運航の概念)
第2章は、第二版における最も重要な制度的変更の核心です。最大の変更点は、対象範囲の記述が「1:5(操縦者1人に対して無人航空機5機等)までの飛行を行うものとする」から、「行う多数機同時運航(1:5を超えるものを含む。)」へと改められたことです。これにより、1:8・1:10を含む多機数同時運航が正式にガイドラインの対象となりました。
ただし、これは単なる規制緩和ではありません。第二版では対象拡大と同時に重要な但し書きが追加され、特にレベル3.5飛行については「1:5を超えて飛行させることは困難な可能性があり、審査要領及び本ガイドラインの要件への適合性について運航者において特に慎重に判断することが求められる」と明記されました。これは別紙の実証事例で「操縦者が8機の監視を継続することは困難であった」という知見を踏まえたものです。
その他、機体認証・技能証明に基づく多数機同時運航の検討開始時期が「令和7年度以降」から「令和8年度以降」へ1年延期されたこと、第一版にあった「対応①②③の段階的区分図」が削除されたことも大きな変更点です。また、将来的には機体の自動・自律化の進展を踏まえ、「機械が担うこと」と「人間が担うこと」の役割分担を検討するという新たな方針も追加されました。
第3章(各種要件)
第3章は第二版で最も大幅に変更された章です。特に以下の3点が重要です。
第一に、「1.機体数の増加に当たっての基本的な考え方」という新たな節が追加されました。この節では、1:5を超える多機数運航を行う際に何を検証すべきかを明確に規定しています。具体的には、機体数を段階的に増加させること、各段階で「通常時の監視継続」「不安全事象発生時の対応と並行監視の両立」「両立困難時の不時着による事故回避」の3要件を確認すること、複数の不具合が同時発生することも想定した検証・体制構築を行うことなどが義務付けられました。
第二に、運航管理の要件が根本的に再構築されました。第一版では簡素な「組織の要件(3項目)」+「運航システムの要件(1項目)」でしたが、第二版では「運航体制の要件((1)〜(6))」と「運航システムの要件(2項目)」へと大幅に拡充されています。新たに追加された具体的な要件は、通常時・非常時の運航手順の策定・検証・遵守、直接関与者の訓練、通信環境の確認、地上監視・周辺空域監視の措置、不安全事象発生時の詳細な対応手順などです。
第三に、操縦者の訓練要件に「直接関与者との組織的連携訓練」と「機体の取り違え・操作混同防止訓練(特に異機種同時運航時)」の2項目が追加されました。
このほか、リスク対策ではテレメトリデータ監視システムの活用が明記され、ジオフェンス機能の活用も新たに追加されるなど、全体的に具体性と実践性が大幅に向上しています。
第4章(マニュアル類)
第4章の表については内容に変更はありません。章番号表記が「4章」から「第4章」に統一された程度で、運航マニュアルや各種手順書、安全管理規程などの記載事項は第一版と同一です。
付録・別紙
別紙の実施事例では、日本航空1:5事例に「具体的な安全確保措置等」の詳細表が追加されたほか、完全新規として1:10(KDDI)および1:8(JAL・イームズロボティクス)の飛行実証事例が追加されました。これらの事例には、通信品質の基準値(20Mbpsという通信品質の具体的基準値)、2段階アラート(WARNING・ERROR)の設計、段階的な機体数増加の実践、訓練手法(ノンテクニカルスキルを含む)など、今後の運航に極めて参考になる実践的知見が含まれています。特に1:8事例の「操縦者が8機の監視を継続することは困難であった」という記述は、第2章の但し書きと直結する重要な公式記録です。
改訂の全体的方向性と意義
第二版の改訂は、以下の3つの方向性に集約されます。
- 対象範囲の実態対応型拡大 第一版が「ここまでは安全が確認できた」という後ろ向きの整理だったのに対し、第二版は実証知見に基づき「1:5を超える運航も対象とする」という前向きな拡大に転じました。ただし拡大と同時に安全要件も大幅に強化されており、両者が一体化したバランスの取れた改訂となっています。
- 要件の具体化・構造化 理念中心だった第一版から、手順・体制・具体的な措置例まで踏み込んだ実務的な要件へと大幅に進化しました。
- 実証知見の制度への反映 実際の飛行実証で得られた「8機の監視継続は困難」「通信の限界(1社あたりSIM 4枚程度が通信の限界)」「継続的な訓練の必要性」といった具体的な知見が、ガイドライン本体にしっかり反映されています。これにより、ガイドラインが「実証に基づく動的な文書」としての性格を明確にしました。
実務上の主要な留意点
第二版への移行にあたり、実際の申請・運航において特に留意すべき点を以下に整理します。
- 1:5を超える運航を計画する場合は、新設された「機体数の増加に当たっての基本的な考え方」に基づき、段階的な検証プロセスを事前に設計・記録することが必須です。
- レベル3.5飛行での1:5超は、特に慎重な判断が求められます。実証で「困難」と記録されている以上、通常以上の具体的な対策と検証結果が必要です。
- 運航管理要件の大幅拡充により、既存の安全対策文書では不足する可能性が高いため、特に運航手順、通信環境確認、監視体制、不安全事象対応手順の強化が求められます。
- ヒヤリハット等の情報共有範囲が「内外」から「内部」に変更されたため、内部での情報共有体制の文書化が重要になります。
まとめ
第一版から第二版への改訂は、「1:5上限の設定」から「多段階・多機数運航への段階的移行の制度化」へと、無人航空機多数機同時運航に関する規制枠組みを質的に転換させるものです。
その本質は単なる規制緩和ではなく、実証知見を丁寧に積み上げながら対象拡大と安全強化を両立させる、実態に即した柔軟なガイドライン運用です。今後も飛行実証の蓄積に応じて第三版以降が策定されることが見込まれます。
運航者各位におかれましては、本ガイドラインが「現時点での合理的な安全基準の集大成」であると同時に「今後も更新され続ける動的な文書」であることを十分に認識し、常に最新版を参照しながら申請・運航の準備を行うことが求められます。
国土交通省航空局より公開された新しいガイドライン
無人航空機の多数機同時運航を安全に行うためのガイドライン (第二版)(R8.6.2付)
ガイドライン第二版 各章詳細要約
第1章 背景
はじめに
本章は、無人航空機(ドローン)が農薬散布・空撮・測量・インフラ点検等の分野ですでに広く活用されており、物流・映像取得・社会課題解決の産業ツールとして期待されているという現状認識から始まります。2015年以降の累次の航空法改正により、飛行許可・承認制度、機体登録制度、機体認証制度・操縦ライセンス制度が整備され、2023年3月にはレベル4飛行(有人地帯での補助者なし目視外飛行)が、同年12月にはレベル3.5飛行制度の創設と初飛行が実現した経緯が整理されています。
こうした制度整備の流れの中で、事業化・社会実装をさらに推進するには「多数機同時運航(1:N運航、M:N運航)の普及拡大が必要」という産業界の声が高まっており、一部事業者が先行的に実証飛行を行ってきたものの、航空法に基づく規制体系に多数機同時運航に特化した安全要件は存在しなかった、という問題意識が本ガイドライン策定の出発点として明記されています。
本ガイドラインは「航空法に基づく規制体系下において、安全に多数機同時運航を行うための要件等の指針」であり、運航者が多数機同時運航を行う際にガイドラインに沿った申請・対策実施が強く推奨されています。また、操縦者だけでなく組織として対応できる主体によって実施されることが望ましいと明示されています。
本ガイドラインは2024年10月設置のスタディグループでの検討を経て2025年3月に第一版が策定され、その後の実証(1:8、1:10)とスタディグループでの追加検討を踏まえて第二版として公表されたものです。今後も知見の蓄積に応じて随時見直しが行われる予定です。また、「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」への本ガイドライン要件の反映についても、引き続き検討が進められる旨が明記されています。
現在の多数機同時運航と将来的な運航のあり方
現在の国内事例では、多数機同時運航はレベル3または3.5飛行(無人地帯・目視外飛行)が主体であり、空中リスク・地上リスクへの対策として**「機体に取り付けられたカメラによって人間が安全を確認し、必要に応じて対応する手法」**が用いられています。デジタル技術活用の手法も存在しますが、実用事例は限定的であり、現時点では安全要件を検討できる段階には至っていません(2026年4月現在)。
カメラ確認方式を前提とする限り、操縦者が監視できる機体数には自ずと上限が生じます。第一版では先行事例の最大が1:5であり、事業者の「5機超では監視の上限を超える可能性がある」との見解も踏まえ、1:5を実質的な対象上限としていました。しかし第二版策定前に2025年度の1:8・1:10の飛行実証が完了したため、その知見を反映して第二版が策定されました。
リスクと機体数の関係については、同時運航機数が増えるほどリスクが増加するため、機数を増やすにあたっては対策の有効性等を段階的に検証することが重要であると原則として明記されています。また、機体数の上限は気象条件・電波条件等の運航環境によっても変化することへの留意が求められています。
将来展望については、機体の自動・自律化が段階的に向上すれば、合理的なリスク対策と合わせて機体数の増加が可能になるという方向性が示されています。図示されたコンセプト図では、現在の「Human-in-the-Loop(人間が直接入力し出力を評価する)」運航から、将来的な「Human-on-the-Loop(人間が機械を監視し、機械が入力する)」運航への移行が構想されており、機体の自動・自律化の進展に応じて操縦者の負荷が軽減され、運航管理の安全への貢献度が向上するというビジョンが示されています。
第2章 想定する運航の概念
本ガイドライン(第二版)の対象範囲
第二版の対象範囲は、**航空法に基づく飛行の許可・承認制度においてレベル3またはレベル3.5飛行により各機体独立形態で行う多数機同時運航(1:5を超えるものを含む)**です。「各機体独立形態」とは、各機体が独立した制御下で飛行する形態を指します。
ただし重要な留保として、レベル3.5飛行での1:5超については特段の注意が求められています。レベル3.5飛行では機上カメラによる確認で立入管理措置を行う構造上、機体数分のカメラ映像を同時に監視することが前提となりますが、人間が同時に処理できる情報量には限界があります。実証においても「操縦者が8機の監視を継続することは困難であった」という記録があることから、審査要領および本ガイドラインの要件への適合性について、運航者において特に慎重に判断することが求められると明記されています。
その他、対象範囲に関する主要な規定は以下のとおりです。
- 対象外:レベル1または2飛行のユースケース(ドローンショーなど)における多数機同時運航
- 自動操縦機能の活用:多数機同時運航を実装可能な形で実施するには自動操縦機能の活用が不可欠
- 機体認証・技能証明に基づく運航:個別飛行許可・承認が不要となる場合の多数機同時運航の扱いは令和8年度以降の検討対象
- 制限の非設定:本ガイドラインはレベル4飛行による多数機同時運航や機体の自動・自律化に係る新技術を活用した多数機同時運航を制限するものではなく、個別審査での許可・承認取得後に飛行が可能
今後の対象範囲
本ガイドラインは今後、より高度な運航形態や自動化に対応すべく、随時見直しを図り対象範囲を拡大していく予定です。その際、機体の自動化の度合いに応じた要件のあり方、機体数の増加に係る考え方や検証手法についても継続検討が行われます。
特筆すべきは、操縦者の担う役割・業務について「機体の自動・自律化で代替するもの」と「操縦者が担うもの」のあり方を今後検討するという新たな方針が明示されたことです。機体の自動・自律化による安全性向上と操縦者の負担軽減効果を踏まえ、多数機同時運航の拡大を検討するとされています。
多数機同時運航の形態と分類
本ガイドライン第二版は、各機体に独立した制御を実施する形態を対象としています。先導機のみを制御し他機が追随する形態は、議論の優先度の観点から第二版の対象外とされています。
取り扱う形態のパターンは以下のとおりです(別紙の実施事例と対応)。
- パターン①:同一エリア内の多数機同時運航(複数拠点・異なるルート、または同一ルート異なる高度)
- パターン②:複数エリアでの1機運航(離れた複数拠点での各1機運航)
- パターン③:複数エリアでの多数機同時運航
- パターン④:複数エリア・同一エリアでの多数機同時運航(上記パターンのハイブリッド)
多数機同時運航固有または増大する運航リスクとしては、不具合発生時に対応しきれないリスク、運航監視の負担増大リスク、地上リスクの増加、複数空域での空中リスク増加、天候等の周辺環境リスクの増加などが挙げられています。
飛行の許可・承認申請の流れ
レベル3飛行の場合、従来通りの審査を実施し、同様の運航であれば過去の申請書文書番号を引用する形で許可・承認の1日化を目指すプロセスが設定されています。申請フローはSTEP1(ガイドラインに即した個別措置の検討)→STEP2(申請書類の提出)→STEP3(許可承認)→STEP4(次回以降の迅速許可承認)の4段階です。
レベル3.5飛行の場合、目視外飛行の延長ケースとして審査要領をベースとした申請に加え、ガイドラインに記載の個別措置の内容を運航概要宣言書に記載する必要があります。運航概要宣言書の内容については航空局との事前合意が必要ですが、不備等がなければ申請は1日程度で許可・承認されます。申請フローはSTEP1(個別措置検討)→STEP2(航空局に運航概要宣言書の内容を事前提出)→STEP3(航空局との合意後、申請)→STEP4(許可承認)の4段階です。
第3章 多数機同時運航に係る各種要件並びに想定される運航リスクの検証及び対策例
本章は、レベル3または3.5飛行を前提として、許可・承認申請の前提事項として留意すべき要件を定めています。少なくとも適合すべき項目として「1. 機体数の増加に当たっての基本的な考え方」と「2. 機体・操縦者・運航管理の要件」が規定されており、第二版で最も大幅に拡充された章です。
1. 機体数の増加に当たっての基本的な考え方(第二版新設)
同時運航する機体数が増加するほど操縦者の監視負荷が増加し、不具合発生確率も高まるため、機体数は段階的に増加させることとし、増加の都度、操縦者による監視継続の可否やリスク対策の有効性等を検証し、本章の要件への適合性を確認することが義務付けられています。
検証において特に確認すべき3要件は以下のとおりです。
- 通常運航時において操縦者による監視を継続させることができること
- 不安全事象発生時に、当該事象に適切に対応するとともに、並行して正常に運航する機体の監視を継続することができること
- 不安全事象への対応と正常機体の監視の両立が困難な場合は、正常機体を不時着させる等により事故等の発生を回避すること
また、複数の不具合が同時発生することも想定した検証や体制の構築を行うことが明記されています。機体数増加の判断は、検討プロセスおよび考慮すべき事項を運航者があらかじめ定め、それに従って行うことが望ましいとされています。
2-1. 機体の要件
申請においては審査要領の以下の項目への適合が必要です。
- 審査要領4-1-1(5):機体の技術基準適合
- 審査要領5-4(1):機体の飛行性能等に関する基準
機体の特性に応じて考えられるリスクについては、次項の運航リスク検証・対策例を参考に必要な対策を講じることが求められます。
2-2. 操縦者の要件
多数機同時運航を行うにあたり、審査要領の要件に加えて具備すべき知識・能力、および実施すべき訓練が規定されています。
(1)知識の要件
以下2種の知識を有すること。
- 多数機同時運航固有のリスク(1:1遠隔自動運航と比較して異なるリスク)
- 例:複数の不具合が同時発生する、同一運航主体の機体同士が想定外の接近をする
- 多数機同時運航に伴い増加するリスク(1:1遠隔自動運航と比較して増加するリスク)
- 例:機体や周辺の状況について把握が不十分となる
(2)能力の要件
以下2つの能力を有すること。
- 異常が発生した機体への対応と、他の機体の運航監視を両立させること
- 複数機で異常が発生しても当該不具合に同時に対応できること
(3)訓練の要件
以下の事項について、机上訓練と実機訓練の両方を実施すること。
- 同時運航の機体数を段階的に増加させて、判断と操作に十分に慣熟すること
- 正常な運航時の操作に加えて、緊急時の判断と操作に十分に慣熟すること
- 不安全事象発生時も含め直接関与者と組織的に連携すること(第二版新設)
- 機体の取り違えがないよう対応すること。特に異なる型式の機体を使用して多数機同時運航を行う場合には、それぞれの型式の特性や操作手順に精通した上で、機体の取り違えや操作の混同がないよう対応すること(第二版新設)
なお、「直接関与者」とは、操縦者、現に操縦はしていないが操縦する可能性のある者、補助者等、無人航空機の飛行の安全確保に必要な要員を指します。
2-3. 運航管理の要件
遠隔自動運航が前提となる多数機同時運航においては、複数機体の操縦・監視を同時に行うことから操縦者の負荷が増加するため、運航体制と運航システムが特に重要とされています。また、これまでの実例に基づき、多数機同時運航を行うために十分な通信容量・電波強度・通信品質を確保する必要があるとされています。
多数機同時運航においては操縦者のテクニカルスキルだけでなく、状況把握、意思決定、ワークロード管理、チームの体制構築、正確な情報伝達等の重要性が高まることが明記されています。
(2-3-1)運航体制の要件
以下6項目すべてを満たすこと。
(1) 運航手順の策定・検証・遵守
通常時と非常時の手順を含む多数機同時運航対応の運航手順が定められ、検証され、遵守されること。手順の要件は以下のとおり。
- 直接関与者の組織的連携を前提とし、各フェーズに応じた連絡手法を確立すること
- 直接関与者それぞれの役割・責務が明確に定められていること
- 不安全事象発生時の対応手順については、実証または机上での検証等を通じてその有効性が確認されていること(複数の不具合同時発生も想定した検証を行うこと)
- 時間的制約のある状況でも使用できるよう、分かりやすい構成・内容であること
(2) 訓練と習熟
不安全事象発生時に直接関与者が運航手順に基づき適切に対応できるよう、予め訓練を行い運航手順に習熟していること。
(3) 内部情報共有体制の構築
ヒヤリハット等を含めた情報を運航者が内部に共有するための手順を定め、そのための体制を構築すること。(第一版の「内外共有」から「内部共有」への変更)
(4) 通信環境の確認
あらかじめ飛行場所における電波強度等の確認を行い、機体数や運航環境を踏まえて通信環境(通信容量・電波強度・通信品質)が確保されることを確認すること。特に機上カメラ映像による監視を行う場合、画像伝送が維持される通信環境を確保すること。
(5) 地上監視・周辺空域監視の措置
以下2点を満たすこと。
- 操縦者による地上監視の負担低減に資する運航上の措置を講じることによって、第三者の立入管理を継続できること。措置の例としては、「地上の第三者の確認タイミングを計画的に分散させる運用上の工夫」「システムによる地上動体検知のポップアップ表示」「システムによるテレメトリデータの監視」が挙げられています
- 全機の周辺空域の監視ができることを検証すること(機上カメラ映像の監視等による)
(6) 不安全事象発生時の対応手順
以下5点を満たすこと。
- 想定される不安全事象への対応策を定め、速やかに行えること(複数の不具合同時発生も想定した対応策を定め、必要な体制を構築すること)
- 対応策が状況によって異なる場合、状況確認・対応策決定・実施に関する手順を定め、当該手順に従って速やかに対処できること
- 対応策が有効に機能しない場合、追加の対応策を速やかに実施できるよう手順を定め、速やかに対処できること
- 不安全事象に関係しない正常機体がある場合は、その運航監視を継続できること
- 不安全事象への対応と正常機体の監視の両立が困難な場合は、正常機体を不時着させる等により事故等の発生を回避すること
(2-3-2)運航システムの要件
以下2項目を満たすこと。
- 運航状況の把握や運航判断を容易とする操作画面・監視画面の配置をすること
- 運航者の想定する多数機同時運航に照らして、操縦者に過剰な負荷がかからず運航できる運航システムであることを予め検証すること
操縦者の負荷軽減に資する運航システムの機能例(必須ではなく望ましい機能)として、機体の点検機能(機体の状況を自己判断する機能)、飛行判断機能(離陸条件が整っていないと離陸できない機能)が挙げられています。ただし、これらは第二版策定時点では先行事例で必ずしも検証済みではなく参考として記載されており、今後の開発動向・検証等を踏まえて見直される予定です。
3. 想定される運航リスクの検証と対策例
多数機同時運航に固有または増大するリスクについて、ボウタイ(蝶ネクタイ)分析の手法を参考にして、不安全事象ごとに予防策(脅威から不安全事象への進展を防ぐ)と回復策(不安全事象から事故・重大インシデントへの進展を防ぐ)が例示されています。各運航者はこれを参考としつつ、ユースケースに応じた独自のリスク検証を行い、予防策と回復策の両方を講じることが求められます。
特に留意すべき不安全事象として以下の3件が抽出されています。
【不安全事象①】機体や周辺の状況についての把握が不十分となる
主な脅威として、情報過多・複雑性、ワークロードの集中、疲労蓄積、コミュニケーションの煩雑化、不具合の発生(特に複数同時発生)が挙げられています。
主な予防策として、机上・実機訓練の実施、監視・操作画面の視認性向上、ポップアップ・音声通知等の状況把握支援システムの活用、テレメトリデータ監視システムの活用(第二版新設)、作業量の分散、権限の明確化・役割分担、操縦者1人当たりの担当機数と連続飛行時間の上限設定などが挙げられています。
主な回復策として、緊急着陸地点の事前設定・緊急着陸の実施、墜落地点の調整、パラシュート等による落下衝撃緩和、権限明確化による現地対応(退避呼びかけ等)、ジオフェンス機能の活用(第二版新設)が挙げられています。
【不安全事象②】機体について制御不能等が発生する
主な脅威として、操縦装置の処理能力超過、通信途絶、通信干渉、GNSS途絶、突風の発生、複数機体の同時不具合が挙げられています。
主な予防策として、操縦装置の同時運航可能機数の事前検証、通信環境の現地調査と機体数の検証、通信の冗長化(複数キャリア・衛星通信)、警告システムの活用、GNSS現地調査などが挙げられています。
主な回復策として、対応手順・権限の事前明確化、直接関与者の操作介入、机上・実機訓練による緊急時対応の慣熟、緊急着陸地点への着陸、人的被害を招く機体への優先対処などが挙げられています。
【不安全事象③】同一運航主体が運航する機体同士が想定外の接近をする(1地域での多数機同時運航)
主な脅威として、通信途絶・干渉、GNSS途絶、飛行ルートの設定ミス、機体の取り違え操作、操縦ミス(特に複数機種同時運航時)、突風の発生が挙げられています。
主な予防策として、通信環境の現地調査と機体数検証、通信冗長化、飛行ルートの重複・接近事前確認、垂直・水平方向の離隔を確保したルート設計、GNSS誤差を考慮したルート設計、逸脱警告システム、指差呼称による機体確認、シンプルで確実なフライトプラン登録手順、機体番号表示システム、機種別特性の把握と操作手順策定(複数機種運航時)などが挙げられています。
主な回復策として、対応手順・権限の事前明確化、自動衝突回避システムの搭載、墜落地点の調整、パラシュート等による落下衝撃緩和などが挙げられています。
第4章 追加で作成すべきマニュアル類
第3章の内容を踏まえ、航空法に基づく飛行許可・承認申請に際して審査要領で求められている飛行マニュアルに加えて、追加で作成すべきマニュアル類とその記載事項が以下のとおり定められています。マニュアルの名称は例示であり、記載事項をまとめて記載しても差し支えないとされています。
| マニュアル類の名称(例) | 主な記載事項 |
|---|---|
| 運航マニュアル | 直接関与者の選定要件、運航方針、運航における基準、事故・重大インシデント等への組織対応手順 |
| 通常時対応手順書 | 日常点検手順、事前準備手順、運航手順 |
| 緊急時対応手順書 | 想定される運航における異常事態および緊急事態への対応手順 |
| 安全管理規程 | 安全方針と安全管理体制、リスクマネジメント、安全推進、事故・重大インシデント等への組織対応方針 |
| 教育訓練・資格管理マニュアル | 必要な教育の実施要領、訓練記録 |
本章の記載内容に実質的な変更はなく、章番号表記が「4章」から「第4章」に統一されている程度です。
付録・別紙
多数機同時運航の実施事例
別紙では、本ガイドラインの対象となる各機体独立制御形態での飛行について、パターンごとの代表事例が掲載されています。第二版では日本航空の1:5事例に具体的な安全確保措置等の詳細表が追加されたほか、**KDDIの1:10事例(完全新規)と日本航空・イームズロボティクスの1:8事例(完全新規)**が追加されました。
NEXT DELIVERY(パターン①、1:5まで)
山梨県小菅村・北海道上士幌町・石川県輪島市等にて、レベル3.5飛行で1:2から最大1:5の運航を実施しています。1拠点から異なる飛行ルート・異なる飛行高度での複数機運航、最大5拠点での配送運航など複数の運航形態が記録されています。道路横断時は機上カメラによる確認を実施しており、遠隔操縦拠点では外部監視用端末とGCS用端末を分けた監視体制が構築されています。
KDDI(パターン②、1:3および1:10)
1:3事例では、栃木県・茨城県の大規模太陽光発電施設3か所にてレベル3飛行による巡回・侵入警備運航(NEDOのReAMoプロジェクト)を実施。夜間での実証も行われました。
1:10事例では、北海道・石川県・東京都・千葉県の飛行拠点から、UTM画面を活用した全機体テレメトリー情報の一元管理と機上カメラ映像の監視により東京から1機ずつの運航をリアルタイムで遠隔制御しました。主な安全確保措置として、以下が特筆されます。
- 衝突検知・回避機能、アラート通知機能、フェイルセーフ機能を備えた高自律機体とドローンポートの活用による操縦者負荷軽減
- 通信手段の冗長化(複数キャリア・衛星通信)
- 複数機体の運航情報が安定して表示されるよう、20Mbpsを通信品質の具体的基準値として設定(1:10運航中もこの基準を上回ることを確認)
- 2段階アラート設計:黄色(WARNING:介入不要だが注視が必要)と赤色(ERROR:何らかの介入操作が必要)でモニター上に専用スペースを設けて表示
- アラート種類:バッテリーエラー、GPSエラー、通信ロスト、気象エラー、ADS-B検知、障害物検知、システムエラー等
- 操縦者が実施できる介入操作:一時停止、RTH(帰還)、セーフランディングポイントへの緊急着陸、介入操作、緊急着陸(その場)
日本航空・KDDI(パターン④、1:5)
埼玉県・北海道・鹿児島県・千葉県の4地点にて、レベル3.5飛行で物流配送を想定した1:5の運航(NEDOのReAMoプロジェクト)を実施。自動点検・条件確認後のみ離陸可能な機能を活用し、ノンテクニカルスキル(状況認識、意思決定、コミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ)を考慮した机上訓練の実施が特筆されます。視線計測とNASA TLX(ワークロード測定)による操縦者負荷の定量的評価も実施しました。
日本航空・イームズロボティクス(パターン④、1:8)
福島県南相馬市と浪江町において、1機はレベル3.5飛行、7機はレベル3飛行で、操縦者:機体比率1:8の運航(NEDOのReAMoプロジェクト)を実施。本実証の最大の目的は「1人の操縦者が扱う機体数を段階的に増加させ、多数機同時運航における操縦者による監視の限界や求められる機能要件を検証する」ことでした。
安全確保措置として、KDDI事例と同様にノンテクニカルスキルを考慮した机上訓練、視線計測・NASA TLXによる定量的評価、直接関与者の役割・責任の明確化、運航手順の簡素化・標準化などが実施されました。
特に重要な実証知見として以下が公式に記録されています。
- 「本実証の運航環境(機体の自動化レベルを含む)において、操縦者が8機の機体の監視を継続することは困難であった」:この記述は第2章のレベル3.5飛行における但し書きと直結する公式記録です
- 通信に関する限界値:1通信会社当たりの同じエリアによる接続機体数が5機では通信の不安定・途絶が頻繁に発生し、「1通信会社あたりSIM 4枚程度が限界」であることが確認されました
- 一定期間が空いた場合は、再度段階的に機数を増加させる再慣熟が必要でした
ボウタイ分析
学会で提唱されているリスク分析手法であるボウタイ(蝶ネクタイ)分析の概念と適用方法が解説されています。不安全事象(トップイベント)を中心に、左側に脅威(スレット)と予防策(プリベンティブバリア)、右側に事故・重大インシデント(コンシーケンス)と回復策(リカバリーバリア)を配置し、リスクとその対策を視覚的に整理する手法です。バリアの機能を弱める阻害要因の特定も含まれます。
本別紙には、第3章で定義した3つの不安全事象に対応するボウタイ分析の図が掲載されており、各脅威・予防策・回復策の関係を視覚的に確認することができます。
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